2025.10.08
 
2025年10月8日、ソフトバンクグループは総額53.75億ドル(約8200億円)でスイスABBのロボティクス事業を買収すると発表した。この大型M&Aは、ソフトバンクが推進する「フィジカルAI」戦略の重要な一手であり、AIを現実世界で動作させるための基盤整備を意味している。

取引概要と背景
  • ソフトバンクは本取引を通じて、自社のAI投資エコシステムとABBの世界トップクラスの産業用ロボット技術を融合させることを狙う。
  • ABBは当初、ロボティクス部門を分社化・上場する計画を立てていたが、ソフトバンクの提案を受けて売却に切り替えた。
  • 総額53.75億ドルのこの取引は、2026年後半の完了を予定しており、EU・米国・中国などの規制当局の承認が必要となる。

ソフトバンクの発展背景:「AI投資家」から「実体AIの担い手」へ
ソフトバンクグループは長年にわたりAI分野への投資を拡大してきた。孫正義会長兼社長は「次の時代はフィジカルAIだ」と強調し、AIチップ・AIロボット・AIデータセンター・エネルギーの4分野に注力している。

同社は過去に人型ロボット「Pepper」を開発し、米Berkshire Greyや自動倉庫メーカーAutoStoreへの出資も行ってきた。今回の買収により、AI投資を中心としたソフトバンクは「AIロボットエコシステムの統合者」として新たなステージへ進むことになる。

ABBの戦略転換:中核事業への集中と株主価値の創出
ABBは1988年設立のスイス企業で、電力インフラおよび産業オートメーション分野のリーディングカンパニーとして110か国以上で事業を展開、従業員数は11万人を超える。ロボティクス事業は2024年に23億ドルの売上を記録しているが、他事業とのシナジーが限定的だった。

ABB取締役会は今回の売却を「事業価値を正当に評価するものであり、株主に即時の価値をもたらす」とコメント。得られた資金は電力・自動化分野などの中核事業に再投資する方針だ。CEOビョルン・ローセン氏は「ソフトバンクはAI時代における理想的なパートナー」と述べている。

M&Aの目的と期待される成果
ソフトバンク側の狙い
AI技術と産業ロボットの融合を通じて、製造、物流、医療、建設など多領域でのAIロボット普及を目指す。ABBのグローバル販売網を活かし、知覚・学習能力を持つ次世代ロボットの開発を加速する計画だ。

ABB側の期待
ソフトバンクのAI技術と資本力を背景に、ABBのロボット事業はAI統合型の新しい製品群を生み出す可能性がある。また、得られた資金を通じて主力事業に集中し、さらなるM&Aや技術投資を推進できる。

買収条件と取引構造
  • 買収金額: 53.75億ドル(約8200億円)
  • スキーム: ABBがロボティクス事業を新会社に分割、ソフトバンクがその全株式を子会社を通じて取得
  • 支払方法: 現金(株式交換なし)
  • 価格調整: ネットデット・運転資本による通常調整あり
  • 買収後: 該当事業はソフトバンクの完全子会社に

スケジュール
項目 日付 補足
取締役会承認 2025年9月22日(日本時間) ソフトバンク取締役会で承認
契約締結・発表 2025年10月8日(CET) 双方が正式契約
買収完了予定 2026年下半期 各国当局の承認取得後

結論:ソフトバンクが描く「第2のAI革命」
本件は、ソフトバンクが単なるAI投資家から、AI駆動型ロボット産業の主導者へと転身する象徴的なM&Aである。取引完了後、ソフトバンクはAI技術から実体応用までを一貫して手掛ける体制を確立し、グローバルAIロボット市場の主役として存在感を強めるだろう。世界の「AI×ロボット」時代は、いよいよ現実のものとなる。