日本の鉄鋼大手である日本製鉄が、アメリカの老舗鉄鋼会社USスチールを買収する歴史的な取引が2025年6月18日に正式完了した。買収総額は約141億ドル(約2兆円)で、日本製鉄にとって過去最大規模のM&A案件となった。本案件は2023年12月の発表から約1年半にわたり、米国の政治問題に発展し、バイデン前政権による買収中止命令を経て、トランプ新政権の承認により最終的に成立した。これにより日本製鉄は米国市場での地位を大幅に強化し、両社統合後の粗鋼生産量は世界第3位の規模に拡大することとなった。
M&Aの目的
買収企業(日本製鉄)の発展背景
日本製鉄の前身は1901年に設立された官営八幡製鉄所にまで遡る歴史を持つ。戦後復興期から高度経済成長期にかけて、日本の基幹産業として成長を遂げ、現在では世界第4位の粗鋼生産量を誇る鉄鋼メーカーとして確固たる地位を築いている。
しかし、国内市場においては人口減少と経済成長の鈍化により、建設や自動車産業向けの鉄鋼需要が頭打ちとなっている状況が続いている。このような背景から、同社は収益源の多様化と海外成長市場への展開を戦略的課題として位置づけており、特にアジア地域での事業拡大に注力してきた経緯がある。
近年は技術力の向上に継続的に投資を行い、環境負荷の低減やハイエンド鉄鋼製品の開発において業界をリードする存在となっている。グローバル市場での競争力強化を目指し、海外での戦略的投資を本格化させていた。
譲渡企業(USスチール)の発展背景
USスチールは1901年、銀行家JPモルガンや鉄鋼王アンドリュー・カーネギーが関与する複数の製鉄会社の合併により誕生した、アメリカ産業史を代表する老舗企業である。1960年代までは世界最大の鉄鋼会社として君臨していた輝かしい歴史を持つ。
しかし、その後は日本をはじめとするアジア系メーカーの台頭により競争力が低下し、長期的な凋落傾向が続いていた。2022年時点での粗鋼生産量は世界第27位まで順位を下げ、米国内でもニューコア、クリーブランド・クリフスに次ぐ第3位の地位に甘んじていた。
高コスト体質からの脱却が長年の課題となっており、ハイエンド鉄鋼製品の開発でも遅れが目立っていた。トランプ前政権時代の保護政策により中国製鉄鋼の輸入制限で一時的な黒字化は実現したものの、根本的な競争力向上には至っていない状況であった。
M&Aの目的と期待される成果
日本製鉄にとって本買収は、成長が期待できる米国市場での事業基盤確立という戦略的意義を持つ。USスチールが保有する米国内の高炉8基、電炉5基の生産設備に日本製鉄の先進技術を導入することで、生産性と生産量の大幅な向上が見込まれている。
また、両社統合により粗鋼生産量が世界第3位規模に拡大し、グローバル市場での競争力強化が期待される。USスチールが子会社として保有する環境技術に優れた最先端電炉メーカーとの連携により、環境対応技術の向上も図られる予定である。
一方、USスチールにとっては日本製鉄の技術力と資本力を活用した競争力回復の機会となる。特に、日本製鉄が持つ高機能鉄鋼製品の開発技術や生産効率化ノウハウの導入により、長年の課題であった高コスト体質の改善が期待されている。
買収条件
本M&A取引は現金による株式取得の形で実行された。買収価格は1株当たり55ドルで設定され、USスチールの発行済み普通株式を全て取得する完全買収案件として実施された。買収総額は約141億ドル(約2兆円)に達し、これは日本製鉄の企業規模を考慮しても過去最大規模の投資案件となった。資金調達については、約5,000億円の借り入れを実行するとともに、将来的な増資の可能性も示唆されている。
米国政府との国家安全保障協定において、2028年までに約110億ドル(約1兆6,000億円)の追加投資実施が条件として設定された。この投資には2028年以降に完了予定のプロジェクトへの初期投資も含まれている。さらに、買収承認の条件として米国政府への「黄金株」発行が決定された。黄金株は企業の特定の重要な意思決定に対して政府が事実上の拒否権を行使できる特別な株式であり、国家安全保障上の配慮から設定された措置である。
買収完了後、USスチールは日本製鉄の子会社であるNippon Steel North America(NSNA)の傘下に入り、ペンシルベニア州ピッツバーグの本社機能と社名は維持される予定である。
日程
2023年12月18日:日本製鉄がUSスチール買収を正式発表。買収総額141億ドル、2024年第2~第3四半期の完了予定と発表
2024年各月:米国の対米外国投資委員会(CFIUS)による国家安全保障審査が本格化。政治問題化により審査が長期化
2024年12月23日:CFIUSが最終判断を米国大統領に委ねることを決定、審査段階が大統領判断フェーズに移行
2025年1月3日:バイデン前大統領が国家安全保障上の懸念を理由に買収中止命令を発令
2025年1月20日:トランプ新大統領が就任。買収案件の再審査が開始される
2025年5月23日:トランプ大統領が買収計画を一転して承認する方針を表明
2025年6月5日:トランプ大統領による最終承認判断が実施される
2025年6月13日~14日:日本製鉄とUSスチールが米国政府との間で国家安全保障協定を正式締結
2025年6月18日:全ての規制当局承認と資金調達が完了し、買収手続きが正式に完了。同日、USスチールがニューヨーク証券取引所から上場廃止。買収発表から完了まで約1年半という長期間を要した背景には、米国における政治的な議論と国家安全保障審査の複雑さがあり、日本企業による米国基幹産業企業の買収という案件の政治的センシティビティの高さが浮き彫りとなった。
M&Aの目的
買収企業(日本製鉄)の発展背景
日本製鉄の前身は1901年に設立された官営八幡製鉄所にまで遡る歴史を持つ。戦後復興期から高度経済成長期にかけて、日本の基幹産業として成長を遂げ、現在では世界第4位の粗鋼生産量を誇る鉄鋼メーカーとして確固たる地位を築いている。
しかし、国内市場においては人口減少と経済成長の鈍化により、建設や自動車産業向けの鉄鋼需要が頭打ちとなっている状況が続いている。このような背景から、同社は収益源の多様化と海外成長市場への展開を戦略的課題として位置づけており、特にアジア地域での事業拡大に注力してきた経緯がある。
近年は技術力の向上に継続的に投資を行い、環境負荷の低減やハイエンド鉄鋼製品の開発において業界をリードする存在となっている。グローバル市場での競争力強化を目指し、海外での戦略的投資を本格化させていた。
譲渡企業(USスチール)の発展背景
USスチールは1901年、銀行家JPモルガンや鉄鋼王アンドリュー・カーネギーが関与する複数の製鉄会社の合併により誕生した、アメリカ産業史を代表する老舗企業である。1960年代までは世界最大の鉄鋼会社として君臨していた輝かしい歴史を持つ。
しかし、その後は日本をはじめとするアジア系メーカーの台頭により競争力が低下し、長期的な凋落傾向が続いていた。2022年時点での粗鋼生産量は世界第27位まで順位を下げ、米国内でもニューコア、クリーブランド・クリフスに次ぐ第3位の地位に甘んじていた。
高コスト体質からの脱却が長年の課題となっており、ハイエンド鉄鋼製品の開発でも遅れが目立っていた。トランプ前政権時代の保護政策により中国製鉄鋼の輸入制限で一時的な黒字化は実現したものの、根本的な競争力向上には至っていない状況であった。
M&Aの目的と期待される成果
日本製鉄にとって本買収は、成長が期待できる米国市場での事業基盤確立という戦略的意義を持つ。USスチールが保有する米国内の高炉8基、電炉5基の生産設備に日本製鉄の先進技術を導入することで、生産性と生産量の大幅な向上が見込まれている。
また、両社統合により粗鋼生産量が世界第3位規模に拡大し、グローバル市場での競争力強化が期待される。USスチールが子会社として保有する環境技術に優れた最先端電炉メーカーとの連携により、環境対応技術の向上も図られる予定である。
一方、USスチールにとっては日本製鉄の技術力と資本力を活用した競争力回復の機会となる。特に、日本製鉄が持つ高機能鉄鋼製品の開発技術や生産効率化ノウハウの導入により、長年の課題であった高コスト体質の改善が期待されている。
買収条件
本M&A取引は現金による株式取得の形で実行された。買収価格は1株当たり55ドルで設定され、USスチールの発行済み普通株式を全て取得する完全買収案件として実施された。買収総額は約141億ドル(約2兆円)に達し、これは日本製鉄の企業規模を考慮しても過去最大規模の投資案件となった。資金調達については、約5,000億円の借り入れを実行するとともに、将来的な増資の可能性も示唆されている。
米国政府との国家安全保障協定において、2028年までに約110億ドル(約1兆6,000億円)の追加投資実施が条件として設定された。この投資には2028年以降に完了予定のプロジェクトへの初期投資も含まれている。さらに、買収承認の条件として米国政府への「黄金株」発行が決定された。黄金株は企業の特定の重要な意思決定に対して政府が事実上の拒否権を行使できる特別な株式であり、国家安全保障上の配慮から設定された措置である。
買収完了後、USスチールは日本製鉄の子会社であるNippon Steel North America(NSNA)の傘下に入り、ペンシルベニア州ピッツバーグの本社機能と社名は維持される予定である。
日程
2023年12月18日:日本製鉄がUSスチール買収を正式発表。買収総額141億ドル、2024年第2~第3四半期の完了予定と発表
2024年各月:米国の対米外国投資委員会(CFIUS)による国家安全保障審査が本格化。政治問題化により審査が長期化
2024年12月23日:CFIUSが最終判断を米国大統領に委ねることを決定、審査段階が大統領判断フェーズに移行
2025年1月3日:バイデン前大統領が国家安全保障上の懸念を理由に買収中止命令を発令
2025年1月20日:トランプ新大統領が就任。買収案件の再審査が開始される
2025年5月23日:トランプ大統領が買収計画を一転して承認する方針を表明
2025年6月5日:トランプ大統領による最終承認判断が実施される
2025年6月13日~14日:日本製鉄とUSスチールが米国政府との間で国家安全保障協定を正式締結
2025年6月18日:全ての規制当局承認と資金調達が完了し、買収手続きが正式に完了。同日、USスチールがニューヨーク証券取引所から上場廃止。買収発表から完了まで約1年半という長期間を要した背景には、米国における政治的な議論と国家安全保障審査の複雑さがあり、日本企業による米国基幹産業企業の買収という案件の政治的センシティビティの高さが浮き彫りとなった。